イラストレーター 川原瑞丸

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【プロフィール】

1991年生まれ。書籍や雑誌の挿絵を中心に、映画や本のイラストレビューでも活動中。装丁・挿絵担当に『ヤング・アダルトU.S.A.』(長谷川町蔵・山崎まどか共著/DU BOOKS)、『買い物とわたし ~お伊勢丹より愛をこめて~』(山内マリコ著/文藝春秋)など。『SPUR』(集英社)で映画のイラストレビューを連載中。

━━━映画のイラスト、コラムはどういう経緯で始めたのでしょうか?

当初は、自分で考えたキャラクターのイラストを描いていましたが、オリジナルのキャラクターの創作を続けていてもなかなか仕事に繋がりませんでした。オリジナルのキャラクターは、取っ付きにくいということもあるので…。

自分がイラストを描くことができるということをアピールしたいと思っていたときに、奥さんから「好きな映画について描いてみたら?」と言われました。もともと自分自身は、興味や趣味を誰かに伝えることを好む方ではなかったのですが、僕自身の興味や関心を周りの人は意外と知りたがっていて、気になっているはずだと奥さんから説得されました。半信半疑でありながらも、最初にスタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情』を描きました。

http://mizmaru.blogspot.jp/2013/12/blog-post_22.html (MIZMARU BLOG『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(1964)感想)

戦闘機や軍艦のイラストに文字を添えている宮崎駿さんの「宮崎駿の雑想ノート」(大日本絵画刊)をはじめ、活字と挿絵が一緒になっている作品を見かけることは度々ありました。イラストだけではなく、文章があることによって自分の好きなものや考えなど、より多くのことを伝えることができると思います。イラストが一枚あるというだけよりは、文章を読んでもらった方が伝えたいことが伝わると感じています。

最初は新作、旧作問わずイラストを描いていましたが、劇場で公開している新作の方がより興味を持ってもらえるかなと思い、新作についてのイラストを増やしていきました。そうこうしている内に、集英社のSPURさんからお声掛けいただいて連載をさせていただくようになりました。最近、新作ばかりになっているので、また旧作のイラストも描いていきたいなと思っています。

━━━イラストを描くうえで、拘りはありますか?

印象が強いシーンよりも「こんなシーンあったっけ?」というシーンの方が好きなので、そういったシーンをイラストにしていくことが拘りです。映画の宣伝などでは、決まったシーンの画像しか使用できないことも多いと思います。イラストであれば、自分の目で見た、自分の見せたいと思うものを見せることができます。そういった部分がイラストの良さだと思っています。

━━━多くの人に見てもらうきっかけとなったイラストはありますか?

僕は映画以外に読書の感想を描くことがあって。山内マリコさんの著書が好きだったので、読書の感想をイラストで描いたところ、本人が気に入ってくださり、後日イラストの原画をお送りしました。これがきっかけで週刊文春の連載でもご一緒させていただくようになりました。僕にとっては、これが大きなきっかけだったと思います。山内マリコさんには、本当に感謝しています。

━━━なぜ、映画と本なのでしょうか?

もともと人並みに知っていることが映画と本のことについてしかありませんでした。ただ、映画と本は関係がともて深いと思っています。本が映画の原作になったりすることもありますし。

━━━今回、映画『ムーンライト』のDVDとBlu-ray特典のアナザージャケット用にイラストを描きおろしていただきましが、本作を初めて観たときの印象はどうでしたか?

事前に色彩が綺麗だと聞いていて、観たらやっぱり色彩が綺麗でした(笑)。『ネオン・デーモン』を観たときにも感想で書きましたが、最近の映画は色彩が綺麗で画作りが凝っていて、視覚的な満足感のある作品が多くなっていると感じています。

http://mizmaru.blogspot.jp/2017/08/2016.html (MIZMARU BLOG『ネオン・デーモン』(2016)感想)

『ムーンライト』(2016)においては意図的な色彩設計、映像内の色に手を加えているであろう画作りから良い意味での不自然さを感じることで、作品で描かれる世界がスーパーリアルの絵であるかのような印象を受けました。現実以上に現実的というか、意図された写実性や色の調整感から絵画のように感じられました。スーパーリアルと表現するのが適しているかはわかりませんが、とにかく作品で描かれる世界がそれらの調整によって、現実よりもさらに迫力を持っていることが印象的でした。

僕の先入観があったせいかもしれませんが、『ムーンライト』の冒頭のストリートな景色や売人たちが登場する描写から、ギャング的だったり、いつ拳銃が出てくるのかなと思ったりしながら鑑賞しました。作品を最後まで観進めていくと、そういった冒頭の印象が変化していき、最後には自分自身の先入観にギャップをもたらしてくれて、勝手に先入観を持ち勝手にギャップを感じてしまった自分と向き合う必要があると教えてくれる映画になりました。『DOPE/ドープ!!』(2015)という映画がありますが、あの作品も同じように人種に対しての先入観を一蹴する映画だと思います。『DOPE/ドープ!!』にも冒頭からギャングや麻薬、拳銃といったことを連想させるシーンがあるんですが、最後にはそういった先入観を裏切るような部分が気持ちいい映画でした。

『ムーンライト』を観ているときは『アデル、ブルーは熱い色』(2013)を意識することもありました。「青」を強調している部分や普遍的な話であるという点で、共通する部分が多いように思います。17~18歳くらいで夢中になったものや出来事が、その後の人生を左右して忘れられない思い出となって残り続けていく、そういった誰にでも起こり得る普遍的なお話が、共通して作品の本質にあるように思いました。

川原瑞丸さん作「シャロンが海で佇むシーン」イラスト

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━━━『ムーンライト』のイラストを6点描いていただきましたが、どういう理由でシーンを選びましたか?

この作品では食卓で言葉を交わすことが多く、いずれも温かみのあるシーンだったので食卓と料理の絵を選びました。初めて出会ったフアンとシャロンが食事をするシーン、テレサとシャロンが食事をするシーン、終盤のケヴィンとシャロンの食事のシーンはリクエストをいただいていたので、ケヴィンがシャロンに作った料理を描きました。ケヴィンが「俺の料理を食べさせてやる」と意気込んでいたのでどんなのが出てくるんだろうと思ったのですが、これがとても家庭的というかシンプルな感じの料理で、だからこその温かみがあってとても美味しそうだったのが印象的です。

この3つの食事のシーンが大切だと感じた理由は、シャロンが母ポーラとの家庭でこういう食卓を囲むことがなかったからなんじゃないかなと思ったからです。実際に、シャロンが母ポーラと食事をするシーンがなかったので、それ以外の食事のシーンが際立って見えたのかなと思います。フアンとの出会いからケヴィンとの再会まで、この映画は食事に始まり食事に終わるという印象があります。

━━━シャロンが海で佇むシーンは弊社からのリクエストで描いていただきましたが、いかがでしたか?

『ムーンライト』は色合いが良い映画なのでプレッシャーがありました。シャロンが海で佇むシーンは、作品の色合いに近づけるのが難しかったです。自分のテイストで多少ごまかしつつも、作品の雰囲気に近いものができたんじゃないかなと思います。

━━━Twitterで投稿していたTHAT’S NO MOONのイラストも『ムーンライト』に因んでいますね。

https://twitter.com/Mizmaru/status/848412720235819008 (川原瑞丸さんTwitterより)

『ムーンライト』のポスターをよく見ると、三人の役者の顔が合体して一人の人間の顔に見えるようにデザインされていますよね。それは映画を観ていても同じ印象で、幼少期から青年期、大人になるまでのシャロンはそれぞれ違う役者が演じていて顔のつくりも異なるんですが、三人が同じシャロンという一人の人間に見えました。仕草やうつむき癖、目つきが同じで、とにかく一人の人間の物語を見ているようでした。Blackのシャロンも見た目が変わっていても、なんとなくシャロンであることが分かりました。

最初にポスターを見たときは一人の人間の顔にしか見えなくて、しばらくしてから気付きました。それに気づいた時、(『スター・ウォーズ』好きの)僕にとっては幼少、青年、成人それぞれが描かれるキャラクターといえばアナキン・スカイウォーカーだったんです(笑)。アナキンは、それぞれの役者が同じ人間には見えないんですが(笑)。あと、「ムーン」と言えば『スター・ウォーズ』にThat’s no moonという台詞があったことを思い出したので描いてみました。後々調べてみたら同じ発想でグラフィックを作っている人がいて、両方の作品を知っていれば思いつくだろうなと思いましたね。

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━━━『ムーンライト』の他にも『お嬢さん』(2016)についてイラストを描いていらっしゃるのを拝見しました。

『ムーンライト』は色彩が綺麗という事前情報を聞いてから鑑賞した一方で、『お嬢さん』は美術が良いと聞いて鑑賞に臨みました。また見た目についての事前情報か!と思いました(笑)。

『お嬢さん』の美術は細かいところまで拘りがあって、和洋折衷なセンスが面白いと感じました。実際にそういった美術を作ろうとするとイタくなってしまいそうなのですが、『お嬢さん』はすごくかっこいいものになっていました。

あと、外から見た日本が描かれていた点も良かったです。外から見た日本がどういう描かれ方であれ、そういった描写を面白いと感じることが多いので。外から見ている人の方が、気付くことは多いのかなと思います。

イラストでは、似非紳士たちの朗読を聞いている姿が怪しげで印象的であったこと、病院でガスマスクを被っているシーンが印象的だったので選びました。

━━━今年これからの注目作はありますか?

『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017年12月15日公開)です!(笑)

川原瑞丸さんの近況は公式サイトをチェック!
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9/15(金)『ムーンライト』DVD&Blu-ray発売!
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