新文芸坐 花俟良王

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【プロフィール】1974年生まれ。雑誌編集者などを経て、2000年に映写アルバイトとして「新文芸坐」に入社。現在は社員として番組編成などを担当。映画と同じ熱量で音楽も好き。

池袋の名画座「新文芸坐」花俟良王(はなまつ りょお)さんが登場。編成における工夫、近年盛り上がりを見せる絶叫上映への取り組み、4/20(金)「新文芸坐シネマテーク」の企画で上映される映画『シルバー・グローブ』についてお話を聞かせていただきました。

 

 映画と劇場が持っている力を信じています

――現在、新文芸坐でどういったお仕事をされているか教えてください。

主に番組編成をしています。新文芸坐では支配人と私の二人で編成をしていて、ざっくりですが支配人が旧作、私が新作とオールナイトの編成を担当しています。

――1日だけしか上映しない作品もあったり新文芸坐は上映本数が多いですよね。

新文芸坐はギネスブックに申請できるんじゃないかというくらい上映本数が多いんです。
当館はパチンコ店の一部問という位置付けで、また映画館は新文芸坐しかありません。企業としては当然のことなんですが数字(売上)にこだわる必要があります。例えば通常の名画座と同様に一週間同じ作品を上映して、それがコケると会社から「なぜこういう上映をやっているのか?」と言われてしまいます。新文芸坐を存続させるために必然的に細かくプログラムを組んでいます。

――年間の上映本数はおよそどれくらいなのでしょうか?

去年(2017年)は700本くらい上映しました。ワンスクリーンにおける上映本数は世界一だと思います。通常の名画座が週に二本上映、単純計算で年間100本前後の上映と考えると7倍ですね(笑)。

――旧作と新作はどういう割合になっていますか?

名画座は古い映画が柱なので7対3くらいで旧作の割合が多いです。

――いつの公開作品を新作、旧作と位置付けているのでしょうか?

厳密なルールはありませんが、公開から3年程度であれば新作としています。一方で、難しいところもあって新文芸坐では監督や俳優さんで旧作のプログラムを組むことも多いので3年以内の作品が入っていても旧作特集とすることがあります。

――お客様の層はどういった方が中心になっているんでしょうか?

旧作の割合が多いこともあって、平日の昼間などを中心にシニアの方に来ていただくことが多いです。
旧文芸坐の頃はスクリーンが2つあって、それぞれ邦画と洋画でスクリーンが分かれていました。今はそれを1つのスクリーンでやっています。古い邦画/洋画と新しい邦画/洋画、それぞれの層に向けた番組編成がひと月の中に必ず存在しています。新文芸坐は欲張りな劇場なので、新旧洋邦問わず様々なことをやりたい、色々なお客様に楽しんでもらいたいと思っています。上映スケジュールを見たときに全てのお客様がどこかにアクセスできるようにするということに気を配っています。
一時期、シニアの方に喜んでいただくために旧作ばかり上映していたことがありました。そうすると若いお客様が全然来なくなって会員も減ってしまい、立て直すのに時間がかかりました。色んな方に目を向けていないといけないと思っています。
早稲田松竹さんであれば若い人に向けたものを上映する、飯田橋ギンレイホールさんであればドラマ好きな人たちに向けて上映するなどそれぞれの劇場に個性があると思います。一方で、ウチは全方位に向けた劇場を目指しています。

――全方位に向けて、ということが年間約700本の上映に繋がっているんですね。

そこを目指していたという訳ではないんですが気付いたらそうなってました。700本はさすがに異常な本数だと思っています(笑)。

――新文芸坐でお勤めされてどれくらいになりますか?

劇場のオープニングからいるので今年で18年目になります。

――新文芸坐で働く以前はどういったお仕事をされていたんでしょうか?

フリーター時代があって、はじめは映画好きがこうじてレンタルビデオ屋で働いていました。そのビデオ屋さんの店長が昔の文芸坐の人で「文芸坐が新しくなるからお前やってみるか?」と言われたことをきっかけに映写係のアルバイトとして働き始めました。

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――そのレンタルビデオ屋さんでも長く働かれていたんでしょうか。

ビデオ屋が個人店だったので割と自由で、就職しても夜中だけ働いたり、就職先が潰れてしまったらまた戻ったりで、足かけ10年くらいは働いていたと思います。当時は、TSUTAYAが台頭してきた時代だったので個人店も減りつつあって、個人店が残っているというのは本当に奇跡的な状況でした。店長は文芸坐にいたような人だったので映画好きの人とも話ができてファンが多かったんだと思います。ただ、最後のときは近くにTSUTAYAができてお客さんも減ってしまっていました。

――個人店ならではの良さがあったんですね。

僕ツイッターが大好きなんですけど、なんで好きかって考えてみたらレンタルビデオ屋で働いていた10年間、付箋にツイッターと同じくらいの文量のお薦めコメントを書きまくっていて。働いてるとお薦めしたくなるんです。当時からツイッターの練習をしてたんだなって思いました(笑)。

――近年、絶叫上映のような上映が増えていて新文芸坐でも実施されていると思いますが、こういった上映についてどう思われますか?

関東ではTCエンタテインメントの小池さんはじめとするV8 Japan(以下、V8)の方々が中心にやっていて、ウチでは『マッド・マックス 怒りのデスロード』(2015)(以下、『マッド・マックス』)の絶叫上映が初めてでした。『ロッキー・ホラーショー』(1975)の上映は昔からありましたが、今の絶叫上映の源流は『マッド・マックス』でしょうね。
絶叫上映には二つパターンがあると思っていて、愛があるものとお金儲けのためのものがあるんですよね。愛があるものはいいんですけど、お金儲けだけのためのものはシステムに組み込まれた感じがあって…。ちょっと安っぽい言い方ですけど絶叫上映ってロックなはずなんです!(笑)
絶叫、発声可能と謳ってだた映画を垂れ流しにするのは作品に対して誠意がない、ロックじゃないと思っています。僕なんかが言う権利はないんですけど、ロックなものに関しては応援したいです。
『パシフィック・リム』(2013)、『マッド・マックス』ときて『バーフバリ 王の凱旋』(2017)でかなり定着した感があって、当初アンチだった人ももう慣れてくれたんじゃないかなと思っています。

――ほかにも絶叫上映の作品を選ぶ際の基準はありますか?

ウチでやることに限って言えば、私がやりたい作品をやりたいですね。なのでウチでしかやっていない絶叫上映が結構あって、それの最たるものが『キング・オブ・エジプト』(2016)です。観たら本当に大味で面白かったので、ぜひやりたいと思いました。『ラ・ラ・ランド』でフラッシュモブでダンサーさんたちと踊ったのも最高でしたね。

――絶叫上映という新しい企画に取り組む際、ハードルはありましたか?

実験的な試みにはルールが伴います。逆に社内的にルールさえ守れば実施ができるんです。あとは売上ですね。その二つを満たせば会社も取り組みに対して許可してくれています。

――絶叫上映をする際に心がけていることはありますか。

劇場の人が前に出る、ということです。それは目立ちがり屋ということではなく、劇場の顔が見えるようにしたいんです。なので必ず私も一緒に前説をするようにしています。

――先日『ベイビー・ドライバー』(2017)の絶叫上映で花俟さんの前説を拝見したんですが本当に楽しかったです。

そう言っていただけるとブルースハープを吹いたかいがありました(笑)。

――前説ってその場でしか聞くことかできないのでイベントに来たという感じが増しますよね。

映画をマックスで楽しんでもらうために、上映前の場の雰囲気をほぐしたいと思って前説をしています。そのためには、使えるお金もあまりないので従業員が頑張るしかないんです(笑)。

――前説は絶叫上映以外でやられることもあるんですか?

そこは悩むところで、有名人でもない人間が出しゃばるのはどうなのかと。ただ劇場の色を出したいとも思っていてオールナイト上映では回を選んでやっています。監督特集や特撮特集のオールナイトではお客様の方向性が統一されているので前説はしていません。最近だと、極端な魅力がある映画をジャンルレスに集めた「極端映画祭」、映画の中に境い目があってそれを超えるか超えないかみたいなテーマで集めた「境い目キワキワナイト」などの上映では来てくださるお客様がライト層、サブカル層だったりすることもあり前説をすることがあります。

――ライトなファンにとっては前説が鑑賞する際の助けにもなりますね。

ツイッターでエゴサーチをしてみると好意的ではあるんですが、ただそれは一部の意見であって出てこない意見もあります。天狗にならずに続けていきたいです。一従業員が100人くらいのお客様の前に出ていって喋るわけですから、これいいのかな?と模索しながらやっています。
映画を体験して帰ってもらいたいという気持ちがあって、前説によって体験の度合いを高められたらと思っています。シネコンではできないことを劇場の個性として工夫してやっていきたいです。

――4/4(水)にBlu-ray&DVDがリリースされた映画『シルバー・グローブ』(1987)を4/20(金)限定で上映していただきます。花俟さんにとって『シルバー・グローブ』とはどんな作品ですか?

『シルバー・グローブ』、すごい作品ですよね。正直言うとアンジェイ・ズラウスキーの作品は二本しか観ていないので、ズラウスキー先生を語るのは恐縮で(笑)。
ズラウスキー作品との出会いは中学生のときに観た『ポゼッション』(1981)でした。普通のサスペンスかなと思って観たんですけど、突如人間と怪物がナニをしている描写が出てきてトラウマになってしまって(笑)。それが衝撃で、なんて気持ち悪い映画なんだ!と思いましたね。さらに酷いことに私が学校に行っている間に母親がこの作品を観てしまって、学校から帰ってきたら「あんた変な映画観てんじゃないわよ」って怒られました(笑)。母に対して申し訳ないという罪の意識とトラウマのダブルパンチで、もうズラウスキー作品なんて死んでも観ないぞ!って思ったのが出会いでしたね(笑)。
今回『シルバー・グローブ』の上映にあたって彼の作品を観ることを自分の中で解禁して。あれから30年くらい経って大人になったので良さが分かるようになっていました。この作品は非常に素晴らしくかつ色褪せない映画だと感じています。カメラが素早く動くんですが、あの突っ走っている感じ、あれが凄い。
ズラウスキー監督は僕が好きなアレハンドロ・ホドロフスキー監督と同じ匂いがすると感じていて。監督本人が出しゃばる感じなんかも似ています。例えば『シルバー・グローブ』で巨大な丸太がいくつも立っているシーンはどう撮っているのか分からない。ホドロフスキーの『ホーリー・マウンテン』(1973)にもどう撮影しているのか分からないシーンがたくさんあります。そういうアートのマジックみたいなところが共通していると感じます。

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映画『シルバー・グローブ』より劇中カット

――『シルバー・グローブ』は「新文芸坐シネマテーク」の企画で上映していただきます。

シネマテークは毎回、映画批評家の大寺眞輔さんと相談しながら行っていて、今回は『シルバー・グローブ』に加えて近年のズラウスキー作品である『コスモス』(2015)も上映します。こういう作品は、より深く知りたいし話しがつきませんよね。なので大寺さんには上映後に講義というかたちで一時間のトークをしていただいています。ズラウスキーの作品はシネマテーク向きだと思っています。

――最後に、新文芸坐の編成担当として花俟さんの今後の目標があれば教えてください。

映画で皆さんの人生を変えるお手伝いができればと思っています。映画も劇場もそういう力を持っていると信じています。そのために自分には何ができるかということをこれからも考えていきたいと思っています。

 

<新文芸坐シネマテークVol.21 アンジェイ・ズラウスキー>
4/20(金)『シルバー・グローブ』/4/27(金)『コスモス』上映!
http://www.shin-bungeiza.com/topics/2549

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