映画『獣道』内田英治 監督

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【プロフィール】
ブラジル生まれ。集英社『週刊プレイボーイ』記者として活動の後ドラマ『教習所物語』(2000TBS)で脚本家デビュー。14年『グレイトフルデッド』は “ブリュッセル国際ファンタスティック映画祭”をはじめ各国主要映画祭で上映。イギリス・ドイツで配給される。16年『下衆の愛』はテアトル新宿にてスマッシュヒットを記録。東京国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭ほか、世界30以上の映画祭で上映。Taste of cinema2016年日本映画部門5位。AMPベストアジアンフィルム16位、TSUTAYA2016年本当におもしろかった映画BEST100」邦洋画総合29位。日本映画年鑑シナリオ集11作品の中にも収録された。現在は『獣道』が各国映画祭にて上映中。

古き良き日本のヤンキー映画としても楽しんでほしい

━━━『獣道』とても面白かったです。英語タイトルの「Love and Other Cults」は、どういう意図でつけられたのでしょうか? ぴったりに感じました。

プロデューサーのアダム・トレルが付けたんです。最初は「アニマル・ロード」みたいな感じだったんですけれど、英語圏の人から見ると、よくわからないということで(笑)。結構深い意味みたいです。「Cult」の意味も、日本人が言う「カルト」とは、また違った意味があるようで。元々は主人公が宗教団体から脱走するというだけの脚本があったんです。でもそのままではあまりにもカルトすぎるだろうと思って。僕は井筒監督が描くような不良たちの青春みたいな映画が好きで、別に書いていた青春群像劇の脚本を足して2で割ったような作品が『獣道』なんですね。

━━━カルトへの興味は元々お持ちだったんでしょうか?

僕は父親の仕事の都合でブラジル生まれのブラジル育ちなんですが、あちらは殆どの人がカトリック教徒。家に住み込みのメイドさんがいたんですが、貧困地帯出身の方が多くて、そういう方はものすごいハードコアなカトリック信者が多い。だから、メイドさんの部屋に遊びに行くと祭壇があって、それが小さい頃は怖かったりした。そういう体験がある中、11歳で日本に帰って来たら、日本の平均的な家には宗教的なものはほとんどないじゃないですか。そのギャップがすごかった。うちの父親は仏教徒で、結構、信心深い方だとは思うんですけれど、僕は完全無神論、無宗教。当時のことを今は客観的に見られるので、逆にすごい興味があるんですよね。宗教や脱カルトについての本をすごく読むようになって、僕自身には信仰がないのに、信仰のある人よりも宗教についてハードコアになっちゃっているんです(笑)。客観的に見て、システムが面白い。

━━━監督の前作『下衆の愛』で描かれていたような映画の世界も、広い意味である種のカルトですよね。

そうですか?(笑)インディーズ・カルト。

━━━映画業界そのものが、関係ない人から見ると、カルトに見えるのかもしれない。「なんでお金にもならないのに、やっているの?」と。経済原理以外のところで動いているというか。ハマってしまうというか。

確かにカルトっぽいですよね。考えたことなかったけど。映画業界に経済原理なんて一個もない(笑)。

━━━だから、映画とカルトって相性がいいのかな、と思いました。

信仰深い人が実際多いですからね。

━━━実話ベースだそうですが、伊藤沙莉さんが演じる主人公の愛衣にはモデルがいるんですか?

そうです。モデルになった女優さんもこの映画に出ているんですよ。彼女は8歳ぐらいまで宗教団体の中で育っているんですけれど、別に親を恨んだり、嫌だったとかいうのはなくて、「幸せだった」という。世間一般から見たらちょっとカルトな団体なんですけれども、本人には幸せな場所だった、というのは面白いな、描きたいな、と思ったんです。

━━━もう1人の主人公である須賀健太さん演じる亮太は、不良をやめる、という選択をしますが、監督の目線は亮太にあるんですか?

みんなに「まさかあんなカッコいい役、自分自身じゃないよね?」って言われます(笑)。僕は11歳でブラジルから大分の祖母の家に行かされ、そこに中2ぐらいまでいたんですけれど、もうとんでもないところだったんですよね。ブラジルから大分。当時、80年代の大分というのは、とんでもないところ(笑)。映画に出てくるヤンキーなんてもんじゃないですよ。2000人いる中学校の9割ぐらいが不良。基本的に、中学生がオートバイ通学で、職員室の前にオートバイが並んでいるという。先生が生徒に挨拶する(笑)。殴られちゃうから。そんな場所で、僕はまあ普通な少年で。僕はその後、東京に来て、普通にすくすく育ったんですけれど、大分時代への思い入れはすごくありますよね。あの人たち、どうしているんだろう、って。その後、ヤクザになっちゃう子とかもいるわけです。『獣道』でいえば、吉村界人くんが演じた役とかがそうなんですけれど、やっぱり、あそこから抜け出せない人がいるので、とても複雑な気持ちで、寝台列車に乗った記憶がありますね。1人、友達にスーパーヤンキーがいて、「ごめん、置いてきぼりにして」っていう思いがありました。すごいワルだったんですけれど、僕とか何人かにはすごく良くしてくれて。そいつがいるといじめられない。そういう、なんとなく記憶にある人を描いたりしました。

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━━━キャスティングについて教えてください。

伊藤沙莉さんは、1本短編をやったことがあったんです。演技も当然のように上手いので、もう最初から決めていました。須賀くんはオーディションをやっている時に勧められて、芝居を観たら、普通に上手いので決めました。若いキャストは殆どオーディションですね。アントニーくんは違いますが。あの役はヒップホップ系の本物のワルい奴とかが候補にいたんですけど、あんまりリアルな人だと、ちょっと(笑)。そこで矢部太郎からアントニーくんに声を掛けてもらったんです。「映画やりたい?」「やりたいです」って。最終的には吉本を通しましたが。

━━━富士山の大自然が広がる美しい場所で、ヤンキーやカルトの世界が展開しているのもすごく面白かったです。私自身は足立区の出身なのでヤンキーはごちゃごちゃした場所にいるイメージなのですが、富士山のふもとで展開するというのが、ユニークでした。

大分もそうですよ。海があって、きれいな町なんですけれど、ヤンキーしかいないんですよね(笑)。今は不良自体が、いないですが。

━━━不良ではなく、本当の犯罪者になってしまう。

この子たちがかわいいのは、18歳で引退しちゃうところ。大体、18歳で暴走族を辞めて、いきなり子供産んで、真面目に働きだすじゃないですか。あれがやっぱり日本特有というのか、面白い文化だな、と。ちゃんと捕まる歳になると、足を洗う。すごいかわいい。外国だと50歳になっても悪いことしていますからね、暴走族なんて。日本のヤンキーは燃え尽きるんでしょうね、10数年で。

━━━富士山を撮りたかったというのはありましたか?

富士山、あの絵は絶対に撮りたかったんですね。対比として。撮影も、かつての上九一色村の近くなんです。撮影であそこへ行って、白装束の人たちに踊ってもらって撮影している時に思いましたね。富士山があって青空で、大自然。ヤバいことをやっているという感覚がなくなる場所ですよ。自分たちは自然に溶け込んでいってるんだ、という錯覚を起こさせる場所。施設が都会だったら、多分、ああはなっていないと思いましたね。さわやか過ぎて、悪いことしている感じにはならないから、逆に洗脳しやすい。あの空気感の中で、何か良いことをいろいろ言われたり、逆に人格否定とかをされたら、僕もヤバいな、と。危険な場所だな、と思いました。日本人はなんか、森とか海が好きだから、すぐ騙されちゃうんですよ。やっぱり八百万文化だから「何か、宿ってるな」となってしまうし、ちょっと瞑想したくなったりしてしまう。

━━━地方都市やいわゆる田舎に住んでいる人の気持ちというのは、都会にいるとなかなかわからない。その気分のようなものが『獣道』には描かれているように思いました。監督は東京にはお父さんの転勤でいらっしゃったんですか?

そうです。「よかったわ」と思って(笑)。あのままいたら、どうなっていたんでしょうね。でも、映画を観るようになったのは大分。近所の田舎の映画館に入り浸っていました。逆に、こっちで育っていたら、もっと楽しいことがあるから、それはなかったかもしれない。

━━━監督の原体験が、『獣道』の中にかなり生かされているんでしょうか?

すごく影響されているかもしれないですね。大分では、ガッツリいじめられて。アウトサイダーでした。ブラジル育ちで、現地の学校に行っていたので、日本語が半分ぐらいわからない。例えば「自己紹介しなさい」って言われて、自己紹介という言葉がわからない、ぐらいの感じだった。「ブタジルー」って呼ばれていじめられました(笑)。言葉も通じないし、友達もできないし。日本の村社会というものを、その時にわかりやすく感じました。「気持ち悪い。外国から来て、言葉もおかしくて」という。東京だったら、そこまでのいじめは多分なかったと思うんですよね。

━━━映画監督を目指すきっかけを教えてください。

大分で友達もいないし、学校にも行きたくないし、というので、逃避先が映画館だったんですよ。ある日、ボールで虫を殺している自分がいて、「こりゃ、ヤベェな」と。自分の凶暴性を自覚した。でも映画館に行って、映画を観ていると幸せだった。『ゴーストバスターズ』とかブロックバスター黄金期だったんで、ほぼ毎週観てました。お金だけは、おばあちゃんがくれたので。両親はまだ駐在で、僕の日本語が下手なのを心配して、僕ひとりだけ、おばあちゃんの家に帰されたんです。でも、2人暮らししていて、孫が子供たちのコミュニティに入っていないから、おばあちゃんが心配するわけですよ。それで少年野球とかいろいろ入れられるんですけれど、どんどんイヤになって(笑)。

━━━映画を作る上で、大きな目標はお持ちですか?

外国で撮りたいですね。でも、アダムにそれを言ったら、「俺、興味ない」って言われたんですよ。イギリス人だから助けてくれるかな、って思ったのに。アメリカとか嫌いだから、あっちの空港に着いた途端に「ああ、日本帰りてぇ」って言う(笑)。

━━━外国で映画を撮りたいというのは、海外で育ったという背景があるからでしょうか?

子供の頃からアメリカやらヨーロッパの映画を観て育ったんで、なんとなく向こうで撮りたいな、というのはあります。ブラジルでは日本映画はまったく見られなかった。ATGとか日本の映画青年が見るようなものを知らずに育ったので。最近、アメリカで短編は撮りました。いつか長編を撮りたいですね。

━━━内田監督はスクリーンの向こうにいる観客をある程度想定して映画を撮っているのでしょうか? あるいは、「わかる奴がどこかにいるだろう」と想いながら、撮りたいように撮っているんでしょうか?

深い質問ですね(笑)。日本にいる全てのクリエイターに突き刺さるような。『下衆の愛』とか『グレイトフルデッド』とかは比較的、何も考えていないです。ただ『獣道』は、「脱走するだけの映画なんて誰が観るんだろう?」と感じたから青春ものを継ぎ足したので、その時点である程度は、観客のことを考えているのかもしれないですね。

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━━━『下衆の愛』も、好き勝手やって反響があった。

そう。だから調子に乗ったんですね。その前の『グレイトフルデッド』はウケるかどうか、なんてまるで何も考えずに撮ってました。そうしたら、アダムをはじめ、いろんな人にめぐり合ったし、映画祭にもいろいろ呼んでもらったので、「そういうのも大切なんだな」っていうのは学びましたね。でも、日本では大コケだったので(笑)。新宿のミラノ座という1200人ぐらい入る大劇場で、20人ぐらいしかいなかった。最近、観客を思い描かなければならないかな、とつい1週間ぐらい前に思いました。やっぱり、観客層というのはある。僕の映画はメインのターゲットがないんで、広がりに弱いな、というのはわかっているんです。

━━━では最後に『獣道』をこれからDVDやブルーレイでご覧になる方へメッセージをお願いします。

カルトの部分に注目されがちですが、「古き良き日本のヤンキー映画」としてもぜひ観てくれたら、と願っています。劇場公開時、インディーズ映画は普段は観ないけれど、伊藤沙莉や須賀健太のファンで、たまたま観たらめっちゃ面白かった、という人たちもいたので、もっとそういう人にも観て欲しいなと。『ビーバップ・ハイスクール』とか、『岸和田少年愚連隊』とかの、昭和青春映画という感じでぜひ観てほしいです。作っている時も、そんな感じでしたから。オールドスクールのヤンキーの青春を観て欲しいな、と思います。マイルドじゃないヤンキー映画。18歳で引退するんですよ(笑)。今の悪い子は、本当の悪い子なんですよね。笑えない。でも、この子たちは、犯罪者じゃないですからね。古き良き昭和の映画としても楽しんでください。

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